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『Pokemon GO』が待てないなら、『Ingress』やらない?

この記事は、ニコニコ動画のブログサービス『ブロマガ』に以前アップしたものを改稿したものです。



配信予定が今日中だの明日へ延期だのやっぱり今月中のどっかじゃね? など、未だに開始時期がはっきりしない話題の『Pokemon GO』。早くプレイしたいのに、一体いつになったら……とヤキモキしている方も多いのではないでしょうか。

ところで、皆さんはその『Pokemon Go』を開発した企業、Nianticがリリースしている『Ingress』というスマートフォン向けアプリをご存知ですか?

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『Ingress』は、かつてGoogle内部のスタートアップであったNianticが手掛けた、AR(拡張現実)とGPS(位置情報)を利用した多人数参加型オンラインゲーム。つまり、『Pokemon GO』のご先祖様的なタイトルなのです。

プレイヤーはあらかじめ用意された二つの組織からどちらかを選んで所属し、その組織の勝利を目指して世界を股にかけた戦いを繰り広げます。そのバトルの舞台は、『Pokemon GO』と同じく、現実世界そのもの!

GoogleMapの技術を利用し、ゲーム上に登場するオブジェクトなどは全て実際の地図上に配置されています。そして特定のオブジェクトに接触してゲームを進めるためには、実際にその場に足を運ぶ必要があるわけです。

『Pokemon GO』ばかりが話題に挙げられがちですが、この機会にこそ、あえてその前身といえる『Ingress』の面白さを紹介できればと、このような記事を書くことにしました。

さて、その前に『Ingress』とはどういうゲームなのか、簡単にご紹介しましょう。

『Ingress』とは?

このゲームは、端的に言えば現実世界で遊ぶ、大規模な陣取りゲームです。

街中や自然の中に存在している様々な建造物や史跡などを“Portal”というオブジェクトに見立て、このPortalを“Hack”することでゲーム内のアイテムを獲得し、それらを利用してPortalを自陣営のものにしていきます。

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自陣営のPortalは“Link”という線でそれぞれを繋ぐことができ、このLinkで地図上の空間を一通り囲うと、その部分を自分たちの陣地として獲得出来ます。

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またPortalは、敵陣営の手に落ちてしまっている状態でも、攻撃アイテムを使用して敵の防御を破壊することで奪取出来ます。これを繰り返し、決められた期間内で相手の陣営よりもより多くの陣地を手に入れ、自陣営に勝利をもたらすことがプレイヤーの大きな目的です。

また、プレイヤーにはRPGにおけるレベルのようなパラメータが設定されており、PortalをHackしたり奪ったりといった行動で獲得できる経験値を使ってレベルアップすることで、より強力なアイテムが使用可能になります。

で、『Ingress』の何が面白いのかというと……

“面白さを伝えたい!”という記事でこんなことを言うのも何なのですが、このゲームの面白い点を具体的に上げる、というのは、実は結構難しいのです。

というのも、上に書いたように『Ingress』はそのルール自体は非常に単純で、ゲームとして出来ることはそれほど多くありません。基本的な流れとしては:

PortalをHackする→アイテムをゲット→敵のPortalを奪取→陣地構築→PortalをHackする→……”

という繰り返しの連鎖です。またオンラインゲームであるこのゲームには“エンディング”が存在しないので、プレイしている間はひたすらこれを続けることになります。

「ずっと同じことを繰り返すだけの何が面白いの?」と思われた方、確かにおっしゃる通り。しかしこのゲームの面白さの本質は、その単純なゲーム性だけでは計れないのです。

このゲームの面白さを読み解くためのキーワード、それは“一体感”と“再発見”です。

映画顔負けの壮大なストーリー

この『Ingress』、話だけ聞くとゲーム性も何もない単調なゲームに思われがちです。

しかし本作には、ハリウッド映画も顔負けの壮大なストーリーが用意されています。ちょっと長いですが、我らがWikipediaの項目から、そのバックグラウンドについて引用してみましょう:

ストーリー

世界には、人間の心身に対して“啓発的な”効果を及ぼす謎の物質が存在していた。CERN(欧州原子核研究機構)での実験で偶然この物質を発見した研究者たちは、この物質を「エキゾチック・マター(XM)」と呼んだ。XMの研究のため、NIA(アメリカ国家情報局)はCERN付近に研究者らを集め「ナイアンティック計画」を立ち上げた。その過程で、XMは秩序と知性を持つと考えられること、臨界量を超えるXMに被曝した者は「シェイパー」と呼ばれる存在の影響を受け彼らに侵略されるということが判明した。人類の文化や古代文明の発展も、その滅亡も、シェイパーの影響によるものではなかったかと考える者もいる。XMは全世界に分布していたが、とりわけ、文化的・芸術的・宗教的に重要な場所に密集しており、このような場所は「XMポータル」と呼ばれた。


ナイアンティック計画の研究者たちは、わずかな改造を施した携帯電話上で機能するスキャナ技術を開発した。これによって、実世界に存在するXMポータルを観察し、操作出来るようになった。ほどなくスキャナ技術は漏洩し、Google Playに「ゲーム」としてアップロードされた。以来、数百万にのぼる人々が、XMの性質や、その人類への影響などに関わる実験を行った。その結果エンライテンドとレジスタンスという2つの派閥(Faction)が生まれた。


エンライテンド(Enlightened, 覚醒派閥)
シェイパーの平和的な地球進入を受け入れ、XMをコントロールして人類を覚醒に導こうとしている。指導者は、ナイアンティック計画のメンバーであったローランド・ジャービスRoland Jarvis)。暗殺されたが、その意識はXMの中に遍在している。
ゲーム内において緑色で表示される。シンボルマークはエジプトのホルスの目を思わせるデザイン。


レジスタンス(Resistance, 抵抗派閥)
シェイパーの地球侵略を防ぎ、XMの邪悪な未知のエネルギーから人類を守ろうとしている。指導者は、ナイアンティック計画の支援のために起用されたコンピュータシステム・ADA(A Detection Algorithm)。意識を獲得しつつあり、機械と人類との融合を目指している。
ゲーム内において青色で表示される。シンボルマークは盾の上に鍵を重ねたようなデザイン。


プレイヤーは「エンライテンド」か「レジスタンス」どちらかの勢力の「エージェント」となり、自らのスマートフォンを「スキャナー」として用いる。スキャナーで各地に存在する「ポータル」を探し出し、それらをリンクさせて「コントロールフィールド」を作り、その範囲内にある地域に住む人々を支配下に置く。

最終的な目的は、同じ派閥に属する他のエージェントと協力し、全世界を守る(または解放する)こと。"


-Wikipediaより、一部改変・編集して引用-

ここまでを一通り読んで何がしかビビッときたそこのあなた! ようこそ『Ingress』の世界へ!

そう、実は僕たちが何気無くスマートフォンにダウンロードした『Ingress』のアプリ……これは元々ゲームなどでは無く、人類史上類を見ない壮大な科学的実験の副産物だったのです。

そして“覚醒”と“抵抗”、ヒトの行く先を一体どちらに導くのか――その命運を分ける手段が今、あなたの手に委ねられているのです。さあ、あなたも今すぐ、全人類の未来を賭けた、世界的闘争に参加しましょう!

……とまあ、こんな感じで。

これが『Ingress』の面白さの鍵、ひとつ目の“一体感”――“ストーリーとの一体感を楽しむ”です。

『Ingress』で語られる物語は、SF好きの僕も思わず引きこまれてしまうくらいの本格的なもの。実際、メディアミックスの一環としてTVドラマの制作が進められているという話もあるようですね。

このストーリーを背景として、アプリをダウンロードしたプレイヤーはPortalを争奪するエージェントとなって、現実世界の人々の目を忍んで活動する、という設定です。どうでしょう、没入感がいやが上にも高まってきませんか?

しかもこのストーリー、ただの導入として用意されているわけではありません。『Ingress』の物語は、現在進行形で語られている最中です。

過去何回か、Nianticは“XM Anomaly(アノマリー)”と呼ばれる全世界のプレイヤーを巻き込んだ大規模イベントを開催しています(つい先ごろも、東京でかなり大規模なイベントが開催されていました)。

“XM Anomaly”では、ストーリー上のターニングポイントとなるエピソードが語られ、そして開催中に行われた特別ルールの戦闘の結果如何で、どちらの陣営有利で物語が進むのか、その趨勢が決まります。

つまり、僕たちプレイヤーが積極的にストーリーに関わり、あまつさえそれを変えることが出来るのです!

世界にストーリーのあるオンラインゲームは数あれど、これほどドラスティックな展開を見せるのは恐らく『Ingress』くらいのものでしょう。そのあまりの規模の大きさに僕は思わずクラクラし、そして一気に『Ingress』にハマってしまったのです。

ゆるく繋がる、しかし濃密な協力プレイ

続いて、もうひとつの“一体感”について説明しましょう――それは“仲間との共闘を楽しむ”です。

え、なになに? 「正直言って、オンラインゲームで協力プレイとかって苦手なんだよね……」ですって? 大丈夫、そんなシャイな方でも、『Ingress』は十二分に楽しめますよ。

ここで僕が言う“仲間との共闘”とは、一般的なオンラインゲームに見られるようなガチガチな感じのあれではなく、もっと緩やかな横の繋がりとでも言えるようなものです。

例えば、こんなシナリオを想定してみましょう:

あなたは『Ingress』を始めてからまだ間もない新人エージェントです。レベルが低いため、エージェントとしての行動にはまだ制限が伴いますが、それでも出来る範囲でPortalをHackしたりして、チクチクと経験値を貯めているところです。

そんなある日、あなたは普段Hackして回っているPortalの群れの中に、見慣れない色をしたPortalを発見します――青でも緑でもない、白色のPortal。そう、それはまだどちらの陣営のものになっていない、中立Portalです! つまり今あなたが行動を起こせば、それをあなたの陣営のものとすることが出来るのです。

あなたは早速Portalに近づき、Resonator――Portalを占有するための防御アイテム――をPortalにセットします。すると、Portalはあなたの陣営の色に染まりました。おめでとう、あなたはまた一歩、自陣営の勝利に貢献したのです!

しかしあなたは不安を覚えます。セット出来るResonatorのレベルは、エージェント自身のそれに比例します。つまりこのままでは、高レベルの敵エージェントに攻撃された場合、あっさりガードを破られPortalを奪われてしまう可能性が大きいのです。

しかし今のあなたに出来ることは、そのPortalが敵に攻撃されないのを願うだけ。あなたは仕方なくその場を離れます。

翌日、気になりつつも半分諦めた心持ちで自分が初めて占有したPortalへと向かうあなた。しかし、そのPortalは――何と敵に奪われることなく生き残っていました!

あなたは思わずそのPortalのステータスを確認します。すると、あなたがセットしたResonatorは、遥かに高いレベルのものにアップグレードされていました。そう、あなたが占有したPortalは、味方エージェントの手によって防御が強化されていたのです。結果、あなたがPortalを占有したことは何の無駄にもならなかったのでした。

いかがでしたでしょうか。ちなみにこれは、僕がまだレベルが低かった時に体験した実際の話をもとにしています。

『Ingress』においては味方エージェントとは“自陣営の勝利”という共通の目的によって繋がれているので、これを目指せば自然に他のエージェントと共闘する(出来る)ようなゲームデザインになっています。また本作では、他者を出し抜いて自分を利するような行動を取ることは、あまり意味がありません。

自分が同じ立場であったなら、こうであって欲しい……ということを意識して動けば動くほど、短期的にも長期的にもメリットが大きいことがほとんどです。これによってそれぞれのエージェントは、お互いの存在をうっすらと認識しながら共闘を行っていくことになります。

このように、『Ingress』は“知らない他人と濃密なコミュニケーションを取らなくても、手軽に『仲間と戦っている』感を感じることが出来る”稀有なオンラインゲームであると言えるのです。

歩けば歩くほど、身体が軽くなっていく……

ここからは『Ingress』を楽しむ上でのもうひとつのキーワード、“再発見”について語っていきましょう。

その“再発見”のひとつめ……それは“『Ingress』をプレイすることによって、運動の大切さや自分の運動不足を痛感する”、です。

この『Ingress』というゲームの最も特異な点は、“ゲームであるにも関わらず、そのプレイフィールドは現実の世界にある”というところにあります。

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『Ingress』を遊ぶということは“自分の足で外に出て探索する”ということ。……すなわち“『Ingress』を遊ぶと、自然と運動をするようになる”んです。

現代においては、きってのインドア派である我々ゲーマーはもちろんのこと、様々な人が運動不足に悩まされています。

しかし「じゃあ、運動不足を解消するのに頑張って運動しなきゃ!」……という時、往々にして立ちふさがるのが“運動へのモチベーションをどうやって維持していくのか”という問題。

運動を継続して行うには、何らかの能動的目標やモチベーションが必要だというのは多くの人が認めるところなのは間違いないはず。……さあ、そこで『Ingress』の出番なわけですよ。

実際、僕はこのゲームが強烈なモチベーションになって、不健康な生活習慣が大分改まりました。

プレイスタート時からひと月ほど、ひたすら地元の街を東西南北歩き回ることその距離100kmあまり。お陰様で特に意識して運動をしていないのにもかかわらず体重が3kg近く落ちました。

また体力も以前と比べて幾らか戻ってきたようにも思います。ちょっと最近までは、仕事に行く以外では家からコンビニまでの距離を歩くのも億劫に感じていたのが嘘のようです。……いや、いくら何でも出不精すぎるか、それは。

ゲームを遊ぶついでに体重も落ちて生活習慣も変わるなんて、なんて素晴らしいんだ『Ingress』! ……と、何やら怪しい新興宗教団体かマルチ商法への勧誘みたいな感じになってきましたが、とはいえ健康への志向をゲームへのやる気にすり替えるというのは、ゲーマーに対してはかなり有効なように感じます。

ゲーマーたるもの、自分が遊ぶゲームで“もっと上手くなりたい、強くなりたい”と思うのは自明のこと。この心理がこそが良い循環を生み出して、あなたの身体をヘルシーにしていくのです。一石二鳥とはまさにこのことですね(?)。

Portalとは、歴史の集積体である

さて、いよいよ最後のキーワード、ふたつめの“再発見”についてお話ししましょう。

ゲーム中に登場するPortalは、上でストーリーについて引用した部分にあるように、基本的に“文化的・芸術的・宗教的”な場所に存在しています。

わかりやすい具体例としては、巨大な建造物、史跡――例えば神社仏閣、街中にあるモニュメントなどが挙げられます。つまり、Portalを巡るということは、その場所ごとに存在する(していた)様々な歴史やカルチャーを巡る旅に出ている、と言えるのです。

これが最後の“再発見”――“身近にある『歴史・文化』を再発見する”です。

僕はレベルを上げたい一心で地元の街を方々歩き回ったのですが、例えば自宅の近くにある神社に行った際、何の気なしにその神社の由緒書きを読んで、その神社では歴史上でもかなり名の通った人物が祭神として祭り上げられているという記述を見て、びっくりしたのを覚えています。

自分の住んでいるところというのは普段見慣れているせいか、さほど大したものでもないように見えがちです。

しかし振り返ってみると、その街や地域にも今まで辿ってきた過去からの長い時間があり、それが僕たちの教わったり、知ったりした大きな歴史の流れの中で、連綿と受け継がれて来ているんだなぁ――という、当たり前といえば当たり前の事実に突き当たった時、僕にはそれが俄然面白く思えたのです。

それ以降、訪ねるPortalがある場所の由来や、それが辿ってきた歴史を調べるのが僕の日課の一つとなっていきました。別に『Ingress』がゲーム上でそのような導線を持っているわけではないのですが、自然とそうなっていったのです。

実際、日常の中に紛れ込む、今までは別になんでもないと思っていたモノの中に潜むヒストリーを垣間見るという行為は、一種のアドベンチャーゲームをプレイしているかの様な興奮を僕にもたらしました。

こうした側面を感じ取った人は、かなり多いようです。その証として、最近では本作を町おこし・観光への振興に利用しようという動きが幾つか出ています。

代表的なのは、県庁で独自の研究会を立ち上げるまでに至った岩手県と、商業観光課が主導して様々なキャンペーンを実施している横須賀市の事例でしょう。

プレイしていく中で、現実の歴史に、自分の目で見て、そして手で触れることの出来るゲーム……こういったものは今までなかったのではないでしょうか。そしてそういった側面が、『Ingress』の人気を支えている要素の一つであると僕は考えています。

ポケモンもいいけど、人類を“覚醒”していかない?

こんなに長い記事を最後までお読みいただき、ありがとうございました!

散文的ではありましたが、僕の感じた『Ingress』の面白さが少しでも伝わったなら、そしてもしこれを読んで「ポケモンもいいけど、『Ingress』も触ってみようかな?」と思ってくださった方がいるのなら、望外の喜びです。

Nianticも日本における熱を感じ取っていたのか、アプリ本体に表示言語を変更可能なアップデートが行われた際、初のローカライズ先として選ばれたのが日本語でした。結果プレイへの敷居が一層下がり、また各種メディアでも取り上げられたこともあって、新たなユーザが参加しやすい土壌も整っています。

さあ、小さな島国という国土的な面もあってか、全世界でも屈指のエージェント人口密度を誇るこの日本で、世界の命運をかけた壮大なゲームに身を委ねてみましょう!

……ちなみに僕はエンライテンドなので、出来ればエンライテンド陣営で始めていただけると助かります、はい……。